村上春樹
ダンス・ダンス・ダンス 講談社
ピナ・コラーダとワイキキ
私は汗まみれになりワイキキのビーチに寝そべる。温暖な果物の甘い香りと、肌に塗るオイルの香りが混じり合った風は、私の心をのびやかに解き放つ。
私はプールの見えるバーで、甘いピナ・コラーダ(ピニャコラーダ)を口にする。ラムの強い香りをパイナップルとココナッツの香りがスッとなだめて行く。甘くてもラム、一杯飲み切るまえに私はすでにほろ酔いとなる。
ふと横を見ると、中学生の年頃の少女が透明な美しさ無遠慮に振りまき、いたずらな笑顔で私にウインクしてくる。
ページをめくるたびに、私はいつしかハワイの太陽と風を感じ、美少女の息遣いを感じる。そして、心の底からリラックスする。
シェーキーズとドルフィンホテル
東京で、混み合った喧騒、煙草の煙がもうもうとするシェーキーズで、熱いピザをほおばる。ピザの旨さより、煙草のけむったさを妙にリアルに感じる。
ドルフィンホテルを探して札幌の町を彷徨い、メガネの良く似合う彼女とトマトジュース&ウオッカでブラディマリーを作り、酌み交わす。
吐く息の白さと、乾いた冷たい空気に、思わず彼女の肩を強く抱き寄せてしまう。
ページをめくるたびに、私は東京で煙草の煙を感じ、札幌でのピリッとした寒さに、心底、人恋しくなる。
◆
ハワイの抜けるような空の青、そして、海の青。
真っ白な入道雲。そしてやっぱり白いピナ・コラーダ。美しい写真家アメのブラウスの白さ。ハワイで出くわす骨の白さ。
東京で友人の五反田君から借りたスーパーカー・マセラティの深紅・・・赤。札幌で彼女と酌み交わすブラディマリーの赤。
この物語は、実に鮮やかな彩に満ちた物語であり、それらは殆ど鮮やかな原色だ。
街とその不確かな壁を読んだ。
そこは、灰色か黒のモノトーンで染め上げられた世界。私は村上の老いを感じたのだけれども、こうして、若いころの作品を読んでみると、こうしてそのカラフルさに改めて驚かされる。
そう、街と・・・では、物語が余りにも暗い色彩のトーンに埋め尽くされていたところに、私は彼の老いを感じたのだな、きっと。
ハルキストを自認し、村上の作品で面白くない、つまらないとは一度も思ったことも無かった私だが、街と・・・では初めて、彼の作家としての老いを感じ、面白くないと初めて思った。
瑞々しくカラフルな世界で、いつの間にか自分も物語の中に入り込んでしまう、この本はそんな一冊。
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