一昨日、街とその不確かな壁を読んだ・・・そして、村上の老いを感じてしまい、まだ若さしか感じられなかった頃の作品をもう一度読みたくなり、結局手にしたのが、一番好きなこの本だった。
羊をめぐる冒険 講談社文庫
◆もう何度めの再読になるだろうか。
何度読んでも挽きつけられる、魅せられる作品だ。旅への誘いと喪失/漂流の物語だと私は思う。
今まで読書は何百冊と読んできたけれども、この作品ほど、
・作中の場所を訪ねてみたい
と思わされる本もかつて無かった。
・いるかホテル
・十二滝村
・ 〃 の終着駅
・不吉なカーブ
・鼠の別荘
などなど、モデルになった場所/建物を訪れてみたいと強く思わされるのだ。
それは、その場所/建物が本当に魅力的に描かれているだけでなく、そこに作者の強い思い入れや魂のようなものが感じられるからだろうと思う。
私の生活の場所となっている場所が、作中に日常として描かれているところに感情移入できてしまう。札幌の街角で「僕」と彼女が肩を寄せ合って歩いているところを目撃できてしまう?そんな、感覚。
この作品は、読むたびに私を旅へと強く誘ってくれる。
そして、この作品は喪失の物語でもある。
もともと村上の作品群の根底に流れているテーゼは「喪失」であり、失うことである。
この作品でも、「僕」は、
・妻
・働き場所
・都会での済む場所
・(古くからの友人の)鼠
・(帰る場所としての)実家やそのマチ
そして、唯一無二の存在である彼女
その他、ありとあらゆるものを失う。
「僕」を取り巻く「人」や「場所」を次々と失ってゆき、「僕」はそもそも、留まる場所が無く(または、留まる場所も失って)漂流し続けているのかもしれない。
この作品の続編ともいえる「ダンス ダンス ダンス」で、「僕」は最終的に、いるかホテルに留まる、という事を初めて表明するので、彼自身が漂流を自覚しているとも思う。
大切な友人、大切な場所、そして無二の恋人まで失って、主人公はこれ以上何を失い続け、どこまで漂流してしまうのだろう、という思いで引き込まれてしまう。
村上がどんな新しい作品をだしてくれたとしても、多分、私はこれを改めてよみなおしてしまうのだろうなと思う。
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