日航123便墜落 疑惑のはじまり:天空の星たちへ 青山透子 著 河出文庫
■白と黒と灰色
読み終わった瞬間、まず頭をよぎったフレーズだ。
二項対立・二者択一。
物事を判断する際、白か黒かだけでなく、その中間の灰色・・・グレーという選択肢もありうるということは、現実世界ではよくある事と私は考えている。
日航123便の墜落事故の直接原因となったのは「垂直尾翼の破壊」であると言われている。
・(圧力隔壁の破壊からの)急減圧による内部からの垂直尾翼の破壊
・ミサイル/他機の衝突などによる外部からの垂直尾翼の破壊
おもな原因、考えられる原因はこの二者という事とのことだ。
そして、どうやら客観的な事実は「急減圧」は無かった様子(と私にも考えられる)。そこで、著者は「急減圧ではないから外部からの破壊に違いない」という理屈に直結する。
ちょっと待って、である。
急減圧は無かったことは事実のようだけど、「ゆるやかな減圧」はあったことも事実のようだ。であれば、
・緩やかな減圧からの垂直尾翼の破壊
という可能性は考えなくても良いのだろうか?ゼロと言い切る根拠はどこに?という考えがどうしても頭をよぎる。
この本の中には「・・・に違いない」という表現が非常に多く、やや強引な判断や推定が多い気がする。
ミサイル誤射による撃墜や他機の衝突という可能性はある、ゼロではないとは私も思う。しかし、そこに導かれる論拠がやや説得性に欠け、情緒的な感情的推定に基づく判断が目に付く。
ジェット燃料の成分は灯油の純度を上げたようなものであるという。その燃焼性から、遺体の炭化の度合いがまるで「(焼死体をもう一度焼き直した)二度焼き」されたような状態からは想像できないという。
なぜ、二度焼きしなくてはいけないかった」かは、民間機撃墜・民間機との衝突などの「自衛隊の落ち度を隠す」為ではないかとほのめかす(さすがに断定はしていない)陰謀論となる。
ありえなくはない。可能性は否定しない。
しかし、現場は斜度30度はおろか40度も越えるような急斜面とのことだ。私はスキーをやるのでちょっとだけ想像できる。30度では歩行すら難しく、ましてや40度を超えるようになるとそこは「崖」で「火炎放射器で遺体を二度焼き」するなどの「重量のある機器を操作する」事など人間ワザとは思えない。
訓練された自衛隊員でも、そう容易ではないと思うのだ。著者は現場にも足を運んだとのことだが、それ(超急斜面の岩場での重装備での難作業であったこと)には触れてはいない。ましてや、その「作業」をおこなったとされるのは真夜中から早朝。障害物の無い処ならともなく、「崖」の中で手元が覚束ない真夜中に出来る事なのだろうかと思えてならない。
冷静に考えれば考えるほど、著者の「ほのめかし」(=政府や自衛隊の陰謀論)の現実味が薄くなると感じてしまうのだ。
勿論、全否定はしない/出来ない。可能性は「ある」ゼロではない。
それは、ミサイル・他機との衝突の方が「物理的破壊」の説明がしやすいからだ。急減圧はなかったらしい。「ゆるやかな減圧」では、垂直尾翼を吹き飛ばすほどの突発的な暴風が起きたことの説明がしにくい。従って圧力隔壁破壊からの直接の垂直尾翼破壊のストーリーがとても説明しにくいのだ。
ただ、だからと言って「自衛隊員?の火炎放射による?証拠隠滅、遺体二度焼き」にも、素直に首肯出来ない。あまりにも無理がありすぎるように思えてならない。
だから、急減圧でもない、陰謀論でもない、第三の原因の可能性は本当にあり得ないのだろうか、と思えてしまうのだ。
灰色の選択肢、グレーな可能性・・・も、またあり得るのではないかと、である。
読後感は、白と黒と灰色・・・灰色もあるのではないか・・・とだ。
しかし、小説作品としては非常に優れている。そして、事件の資料性としても優秀な記録であると思う。
ややエモーショナルで感情移入が強いきらいはあるけれど、遺族の心情に沿った読者を引き込む描写は見事の一言。
丹念な取材や新聞等の記録調査と整理にも卓越した作品である。
一読の価値はある。

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