◆2021年6月13日(日)江別は晴れ
村上春樹 短編集を読む
私は村上の作品は長編が好きだが、短編もまずまず楽しめる。
◆8編の私小説集
村上はインタビュー等で、短編および小説に関して以下のように述べている。
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短編小説を書くことは多くの場合、純粋な個人的楽しみに近いものです。とくに準備もいらないし、覚悟みたいな大げさなものも不要です。アイデアひとつ、風景ひとつ、あるいは台詞の一行が頭に浮かぶと、それを抱えて机の前に座り、物語を書き始めます。
小説は、読者が自分を映す『鏡』のようなもの。書いた僕と読んだ君の意見が違っても、間違いではありません。
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>アイデアひとつ、風景ひとつ、あるいは台詞の一行が頭に浮かんだセリフ
この短編集はまさにこの、アイデアひとつ、風景一つ、セリフの一行が、それぞれのテーマ/モチーフになっている。
・石のまくらに⇒モチーフは「一首の短歌」
たち切るも/たち切られるも/石のまくら
うなじつければ/ほら、ちりとなる
この一首について書きたいがために一編の短編を編んだと思われる。
・クリーム⇒モチーフは「中心がいくつもありながら外周をもたない円」
心から人を愛したり、何かに深い憐れみを感じたり、この世界のありかたについての理想を描いたり、信仰を見出したりする時・・・というような大きな心の動きの比喩として「中心がいくつもありながら外周をもたない円」と言う言葉を用い、それを人生のクリームと称する。
・チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ⇒テーマは「伝説のジャズプレーヤーによる僕だけに向けたスーパーなプレイ」
僕が夢で見た、スーパープレーヤーのスペシャルな演奏。
・ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles
モチーフ⇒「ビートルズのレコードを抱えた少女」なんだけれども・・・描かれているのは実は、性の初体験を与えてくれた最初の彼女への随想
・「ヤクルトスワいローズ詩集」
テーマは、もちろん「ヤクルトスワローズ賛歌」。熱狂的では無いけれども、長く緩くスワローズを応援する作者自身を表している短編。
・謝肉祭 Carnival
モチーフ⇒シューマンのピアノ曲集「謝肉祭」と「不美人な女性」
村上は、やはりこのシューマンの謝肉祭について書きたかったのだと思う。それで、これに見合う人的モチーフとして「恐ろしく不美人だけれどもリッチな女性」を作り上げた。
最後の最後で、この女性にもオチが付くのではあるが・・・
・品川猿の告白
モチーフ⇒人間の言葉をしゃべることが出来、人間に恋をし、人間にのみ性欲を持つ猿。
人間の言葉をしゃべることが出来る猿は、ほかの猿たちとは相いれず、結局究極の孤独となる。そして、人間に恋をし人間にのみ性欲を持つがゆえに、性欲の代償行為を求めざるを得ない、究極の恋情。
この品川猿は、究極の孤独と究極の恋情のメタファーとなっている。
・一人称単数
テーマ⇒「私の中にある私自身のあずかり知らない何か」
ある酒場で、私は、冤罪、いわれのない言いがかりをつけられる。不当に糾弾されるのだが、それに反論することが出来なかった。
自分が知らないうちに他者に対して、とんでもなく酷い事をしているかもしれない、そんな未知なる、自分の知らない自分が明るみに出てくるのが怖い・・・という話。
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徹底した一人称、自分自身による自分語りの短編集。
長編には無い軽さがあるけれども、それだけではない。
8編、ひとつひとつに、一人称の「僕」が、突きつけられている/抱えている、テーマ/モチーフとの向き合いは理屈抜きに楽しめるとは思う。
私は、長編が好きだけれども・・・

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