◆カラフルで多感な高校生時代の仲間たちから・・・・
アカ・アオ・シロ・クロ・・・カラフルな名前を親友たちと、高校時代を過ごした主人公「多崎つくる」。
彼だけが、名前に色を持たない存在で、彼だけが高校卒業後地元を離れ東京へ出た。
仲の良い5人での生活は極めて居心地が良く、「可能な限り5人で一緒に行動する」という一つの共同体の様ですらあった。
揺りかごに包まれているような優しく、濃密で親密な時間を彼ら5人は過ごした。
そして、それは「つくる」が一人東京に出てからも続き、「つくる」は、地元に帰り、居心地の良い「共同体」に変える事を何よりの楽しみにしていた。
ある日、突然、理由も告げられず、「つくる」はその共同体からスポイルされた。
激しく拒絶され、4人の誰とも会ってもらえず、すべての接触を拒否される。
家族同様、家族以上のつながりの共同体の中にいた「つくる」は、居場所を失い、生きるすべまで失いかける。いや、実際に「生きるために必要な何か」を失ってしまう。
積極的に生きることを放棄し、死線をさまよい、ある種「廃人」の様になってしまう。
そして15年物歳月が流れる・・・
「つくる」には新しい恋人・・・になりつつある女性を得る。そして、その女性は「つくる」の中に「生きるために必要な何か」が欠けていることに気づき、それともう一度向き合うように強くすすめる。
欠けてしまった「生きるために必要な何か」・・・それを探すことに、どうしても積極的になれなかった「つくる」だったが、彼女の強いすすめに、15年ぶりに、彼ら4人に再開する「巡礼」の旅に出る・・・
ここでの巡礼とは、過去の「(名前に色はなくとも)カラフルに生き生きと生きていた自分」を取り戻す旅の比喩として用いられる。
そして「つくる」は、その巡礼の最後には、なんとフィンランドまで訪ねて行くことになる。
巡礼の中で、時間を取り戻すことはできず、結局失った「生きるために必要な何か」を取り戻すことは、永遠にできなくなってしまった事を知る。
欠けてしまったピースがあり、それは、もうどうしても取り戻せなくなってしまった。
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赤・青・白・黒・・・この4色の他、緑と灰色の色を持つ人物が現れるのだが、この二人の物語の中での役割が、全くわからない。
伏線としても唐突で、登場する意味が私にはわからなかった。
おそらく、この二人の登場部分をサックリ切り落としてしまっても、この物語は成立するだろうと私は思う。
そうした、村上作品特有の腑に落ちない割り切れなさはあるのだけれども、全体としては非常に面白かった。
そして、ラストに向けて、フィンランドでの光景が映画のワンシーンの様だった。
かつての親密な「共同体」の中で、ひそかな恋が育まれ、15年の歳月を経て、それが一つの結実を迎えるシーンがある。
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二人はもう一言も口をきかなった。
言葉はそこでは力を持たなかった。
動くことを忘れてしまった踊り手たちのように、彼らはただひっそりと抱き合い、時間の流れに身をゆだねた。
それは過去と現在と、そしておそらくは未来がいくらかまじりあった時間だった。
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重なり合う二人のシルエットは、北欧の冷たい空気の下、どこまでも透明感のある温もりを描き出している。
美しい、とても美しく流れる時間が切り取られている。
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好き好きはあるだろうが、非常に面白かったし、私はこの作品が好きだ。

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